テレビ電話レンタル商法の「WILL」
消費者庁USB販売で連鎖取引停止命令15カ月
テレビ電話のレンタルオーナー商法をマルチ取引で展開する 「WILL」 (ウィル、 東京都渋谷区恵比寿、 中井良昇社長) に対し消費者庁は 12 月 21 日、 連鎖販売取引 (マルチ取引) を規制する特定商取引法を適用し、 テレビ電話専用の USB メモリの連鎖販売取引を1年3カ月停止する命令を出した。 併せて、 実質的な支配力を持つ会長の大倉満、 社長の中井良昇ら6人に同期間、 同様の連鎖販売取引を新たに開始することを禁止する業務禁止命令を出しているが、 23 日にはその大倉が説明会を行い、 「やり方が悪かったと指摘されたので、 連鎖販売取引を別のやり方に変えて続けるので大丈夫」 だと話しているという。 連鎖販売取引を停止しても、 取引形態を変えれば業務の継続が可能で、 ジャパンライフの教訓が何ら生かされていない。 立入検査から4カ月程度で行政処分が行われた点は、 消費者庁の執行体制が整備されつつあると言えるが、 破綻まで被害が顕在化せず相談につながりにくい預託商法は、 一定程度の相談件数が積み上がってから立入検査をして処分するやり方では、 処分したころにはすでに被害は拡大し、 立入検査後に資産を散逸させる機会を与えてしまう。 取引形態ごとの個別の行政処分では消費者被害の抑止は困難。 刑事告発に加え、 同様の被害を繰り返さない法制度の厳格化が不可欠だ。 消費者庁はまた、 ジャバンライフと同様に、 後手後手の対応で被害の拡大を許すのか。(相川優子)
業務禁止命令中の大倉、命令無視し説明会
「やり方変えて事業続ける」
ジャパンライフの被害高齢女性
ジャパ勧誘者に誘われWILL契約
東北地方の 70 歳代の女性は、 いい投資があると誘われ、 磁気治療器のレンタルオーナー制度を展開するジャパンライフ (東京都千代田区西神田、 山口隆祥会長) に 7000 万円をつぎ込んだが、 半年で同社が破綻した。 退職金のほか、 老後のためにコツコツためた定期預金、 保険も解約した。 破綻後一銭も戻っていない。 当時から付き合いがあったジャパンライフの勧誘者から、 「テレビ電話のレンタルオーナーになると8台分 60 万円が3年で 72 万円になるので、 少しでもお金を増やさないか」 と誘われ、 今度は 「WILL」 と数百万円の契約をしてしまった。 23 日の説明会で、 消費者庁から取引停止命令を受けたことを知ったが、 「大倉会長から大丈夫だと説明された」 という。 「ねずみ講のようなやり方が悪いと指摘されたので、 別のやり方に変える」 と言われ、 これまでの勉強会などで配られたパンフレットなどをすべて返却するよう求められた。 1月中旬には新しい資料が提供されるとも説明された。 年明けの温泉旅行や、 韓国の視察旅行も予定通り行うという。
連鎖販売取引業者として特商法で処分
預託法、テレビ電話は適用対象外
消費者庁は、 今回の行政処分で、 同社についてテレビ電話のアプリケーションを読み込ませたカード型 USB メモリ 「ウィルフォンライセンスパック」 を販売する連鎖販売取引業者だと説明。 連鎖販売取引 (マルチ取引) を規制する特定商取引法を適用した。
レンタル商法を規制する預託法は、 政令で指定した商品しか適用できず、 テレビ電話や専用 USB は指定されていない。
契約者は数千人規模、 契約額は、 認定した専用 USB メモリの販売数から試算すると 400 億円程度と見られる。 消費者庁によると、 同社は専用 USB メモリを8個セット 59 万 6160 円 (4個セット 29 万 8080 円) で連鎖販売取引で販売し、 3年契約で賃借し、 3年間の賃借料8個セット 72 万円 (4個セット 36 万円) を支払っていた。 専用アプリをインストールした賃貸テレビ電話 「ウイルフォン」 を国内外のホテル等でレンタルしていたと説明している。
借りた専用USBメモリ53万個
貸しているテレビ電話9000台
認定した違反は、 ①8月6日時点で賃借している専用 USB メモリ 53 万 560 個に対し、 同月末時点で第三者に賃貸しているウィルフォンの台数は 9350 台 (1.8%) に過ぎないにもかかわらず、 勧誘時に故意に告げていなかった②ウィルフォンを賃貸させる方法としては、 専用 USB メモリ内のアプリケーションをインストールしたり、 アプリケーションの元データをインストールする方法があり、 専用 USB メモリは必ずしも必要ないにもかかわらず、 故意に事実を告げていなかった。
「判断に影響を及ぼす重要事項の不実告知」 で2つの違反を認定している。
このほか、 ③勧誘時、 「ランチしない」 「旅行に行きましょう」 などと誘い、 マルチ商法の勧誘であることや統括者の氏名等を明らかにしていなかった④連鎖販売取引契約を解除した場合の損害賠償額の上限規定をきちんと契約書に記載していなかった。
大倉満ら6人に業務禁止命
顧客への業務状況通知を指示
業務禁止命令の対象となったのは、 役員ではないが会長と呼ばれ主導的な役割を果たしてきた大倉満のほか、 9人いる役員の中から、 社長の中井良昇、 取締役の本田欽也、 小池勝、 小林京子、 赤﨑達臣の5人の計6人。
消費者庁は、 ライセンスパックの個数や売上収入の総額、 賃借料の総額など、 年度ごとの業務状況を2月 20 日までに、 消費者庁長官に文書で報告した上で、 すべての連鎖販売取引契約者に通知することも求めた。
相談件数3年で300件
最高契約金額6000万円
全国の消費生活センターに寄せられた同社の 2016 年度以降の相談件数 (2018 年度 12 月7日まで) は、 2018 年度 48 件、 2017 年度 119 件、 2018 年度 134 件の計 301 件。 7割が女性。 70 歳代 33%、 60 歳代 22%、 80 歳代 11%と高齢者が多く、 平均年齢は 65.5歳。 平均契約金額は約 440 万円、 最高契約金額 6000 万円。 平均既払い金額は約 349 万円、 最高契約既払い金額は 4000 万円だった。
レンタル事業の収支
消費者庁、今回も明らかにせず
同日の会見で、 消費者庁取引対策課の佐藤朋哉課長は、 「現時点でこの会社はおおむね会員への支払いは履行しているため被害は顕在化しているわけではないが、 ビジネスの仕組みなどから継続可能性については疑義があり、 消費者の利益が著しく害されるおそれがあると考えている」 と、 ジャパンライフの行政処分会見時よりは踏み込んだ発言をしている。
しかし、 今回もレンタルオーナーやユーザーの数、 それぞれの契約額等のレンタル事業の収支は一切明らかにしなかった。 契約者は数千人、 契約額は 2017 年度9月期の売上が 125 億円と示したのみだ。 「著しく害されるおそれがある」 と公表するのであれば、 根拠となる実態を丁寧に説明し、 周知に徹するべきだ。 自転車操業の実態が伝わらず、 このため、 各社の報道も多いとは言えない。
佐藤課長が 「このウィルフォンのレンタル事業が全くダメだということを我々としては確定しているわけでは当然ないわけで、 将来このウィルフォンが爆発的に借りられることが絶対ないかといわれれば、 そんなことは誰も否定できない」 と補足説明をしたことで、 さらに分かりにくくしている。
また、 預託法の指定商品に追加して対象にした場合についても、 「ライセンスパックという USB メモリ自体は相当程度あったと思う。 物なしだったかといわれると、 にわかにそう言い切れる状況はなかったのではないかというのが現時点での我々の心象」 と話した。
「このままでは被害止められない」
行政処分に内部告発者から疑問の声
これら行政処分について、 本紙に内部告発した複数の同社社員や元社員は 「実態が伝えきれていない」 「分かりにくく、 契約者も誤解しかねない」 「このような処分では多くのお年寄りがまた被害に遭う」 と、 疑問を投げかける。
「ライセンスパックは海外でも 100%使われていない」 「TV 電話の代わりに、 海外でレンタルされているのは、 日本の放送各局とライセンス契約をせずに違法に日本のテレビを見るための機器ウイルフォン K」 「ウイルフォン K の契約台数も、 ハワイのホテルでの1泊レンタル数 (1台5㌦のため 100 台でも 500㌦) まで含んでいると思われ、 実際は6~7000 台」 「スマートフォンで画像付き無料電話ができる現状で、 かける方も受ける相手も、 あの大きな卓上テレビ電話が必要で、 国内外でも需要はない」 「ライセンスパックは 53 万個も存在しない。 せいぜい1万個程度。 何度か再利用された後、 日本から海外支社に送られるが、 海外支社の倉庫に積まれたまま」 「ブラジル支社に送ったライセンスパックは税関で入れることが認められず、 放棄。 破棄処分された。 どの投資家が購入した分のライセンスパックが破棄されたか、 WILL は説明責任がある」 など、 複数の社員、 元社員が同様の証言をしている。
「ライセンスパックは、 契約者が購入したと思っているテレビ電話が存在しているように見せかけるためのカモフラージュに過ぎない」 と訴えている。
ジャパンライフの教訓生かされず
また、後手後手の対応繰り返すのか
消費者庁は、 これらを調査できる権限があり、 公認会計士もいる。 連鎖販売取引で賃借した専用USBメモリの数が、 貸しているテレビ電話の台数の2%に満たないことを認定しておきながら、 なぜ、 レンタル事業の収支を数字で示して、 自転車操業であることを分かりやすく公表することができないのか。 疑問でしかない。
ジャパンライフは、 預託取引や連鎖販売取引、 訪問販売の業務停止を命令されても、 モニター商法、 リース債権譲渡販売などに取引形態を変えて販売を続けてきた。 消費者庁は同社に4度も行政処分を行ってなお、 最後まで被害を止めること (被害者による申し立てで東京地裁が破産手続き開始を決定) はできなかった。
WILL は早々に連鎖販売取引のやり方を変えると顧客に説明しているが、 ジャパンライフの経験から容易に想定できたことだ。
消費者庁は、 今回も契約者数やレンタルオーナーの契約総額、 レンタル料の総額等を会見で明らかにせず、 ジャパンライフと同様に事業者から顧客に通知させる指示を行った。 ジャパンライフは顧客にうその通知を繰り返してきたのではなかったのか。
ジャパンライフの教訓は、 全く生かされていない。
海外でさらに勧誘を強化しろという会社の指示に不安を募らせる社員も少なくないという情報も寄せられている。
消費者庁はジャパンライフの行政処分と同様に、 また、 後手後手の対応で被害の拡大を許すのか。
まずは刑事告発を
法制度の厳格化不可欠
このような状況では、 まずは、 刑事告発が急がれるが、 そもそもこれらを規制する法制度の問題がある。
レンタルオーナー商法は、 破綻しなければ被害が顕在化せず、 顕在化したときには甚大な被害が回復できない状況に陥ってしまっている恐ろしさがある。 相談事例が一定程度積み上がってから、 調査し立入検査をして公表したころには、 被害がすでに拡大している。 立入検査から破綻までの期間を長引かせれば、 事業者側に資産を散逸させる機会を与えてしまう。
連鎖販売取引で、 重要事項の事実不告知を認定した場合、 確かに、 同法に基づいて契約の取り消しを主張でき、 返金を求めることができる。 WILL は現時点では返金手続きに対応し、 1月 10 日ころに返金すると設営しているが、 このような商法では、 多くの人が返金を求めても、 新たな被害者からお金を集めなければ返金は不可能だ。
現行の預託法は、 抜け穴だらけで、 むしろこのような悪質商法をあえて許容しているようにさえ見える。 現行法の行政処分では、 ジャパンライフや WILL のような商法から消費者被害を抑止することはできない。 参入規制や財政状況を監視する仕組みの導入など、 法規制の強化は不可欠といえる。 悪質業者から利益を吐き出させることも含め早急な検討が求められる。