全国どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられ、
安全・安心が確保される地域体制を築くために
2009年に創設された消費者庁は、消費者基本法の理念を実現するため、具体的な消費者政策を推進しており、重要な関連法律が相次いで制定・改正されている。
消費者被害の救済・防止の観点から注目すべきは、消費者庁創設と同時に制定された消費者安全法である。
この法律は、平たく言えば、全国どこに住んでいても、質の高い相談・救済を受けられる地域体制を整備し、かつ、全国から消費者事故等に関する情報を消費者庁に集め、消費者庁がその情報を分析して、消費者被害の拡大防止につなげるという仕組みづくりを目的としている。同法律は、2012年に続き、2014年に改正されている。2014年改正法は、地域の見守りネットワークの構築、消費生活相談員・資格試験制度の法定化等を内容としている。消費者安全法の定める仕組みが機能すれば、被害の救済、被害の拡大防止に役立つことは明らかである。
課題は、全国規模で、地域社会における施策の拡充が前提になっており、地域格差が激しい現状において、地方消費者行政の強化をどう実現するかである。消費者庁は、発足時より、地方消費者行政活性化政策を推進している。消費生活センターの拡充、相談員資格の取得支援、相談員の研修などである。
私は、かつて東京都の、最近では基礎自治体の審議会活動に長きに渡って関わってきたが、さらにここ数年、24都道府県で、地方消費者行政活性化事業における研修講師を務めてきた。
各地で行政職員、消費生活相談員、受講生と意見交換を行うことができたが、地域社会における消費者行政の重要性を再確認するとともに、都市部と他の地方との格差の実態を目の当たりにすることになった。
予算規模、マンパワーの格差は勿論であるが、気になったのは、政策・立法・行政に関する情報や学習機会の格差である。都市部以外の地方では、街の大きな書店に行っても、消費者問題に関する書籍・雑誌は皆無に近いし、消費生活センターにおける資料室も十分ではない。常設の連続講座もほとんど開かれていない。
行政職員が国の交付金を活用するためには、国が相次いで打ち出す施策を的確に把握していなければならないし、住民・消費者が相談員になろうとしたとき、学習機会が確保されていることが肝要である。相談業務に携わる者は、制定・改正される法律を理解していなければならない。確かに、地方にいてもインターネットを活用して情報を得ることはできるが、消費者を取り巻く問題状況を把握していないと、インターネットの有効活用も容易ではない。
そこで、消費者問題、消費者政策・立法、消費者団体等の動きを迅速に報道する『日本消費経済新聞』を消費生活センター等に置き、行政職員、相談員、住民が閲覧できるようにすることが、一つの効果的な方策と考えられる。
近年、消費生活に関連する国の政策、関係法の制定・改正は活発であるが、一つの考えで法律ができるわけではなく、さまざまな考え方があり、最終的には、国会が多数決で決めるものが法律であるから、制定前のさまざまな考え方を知ることが、制定の理解を助けることになる。
この点、法律の制定前後の問題状況や消費者政策の動向を逐次伝えてくれる『日本消費経済新聞』は、有難い存在である。消費生活相談員の資格取得をめざす者や消費者問題に関心を持つ消費者にとっても、学習教材として役立つはずである。
平成29年11月