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2018/05/29

日本消費経済新聞2232号(2018年5月25日発行)

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衆院消費者特 参考人意見陳述から
社会生活上経験不足の要件削除を
河上正二・前消費者委員会委員長
 衆議院消費者問題特別委員会は5月 15 日、 参考人の意見陳述を求めた。 消費者契約法改正に向け答申をまとめた内閣府消費者委員会前委員長の河上正二氏は、 「社会生活上の経験が乏しい」 の要件を削除した上で、 「消費者の知識、 経験、 判断力等の不足を不当に利用して、 過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合」 の取消権をきちんと規定することが今回の改正の最重要課題と述べた。 消費者契約法は、 民法などに次いで適用範囲が広い包括的な性質を持った特別法で、 トラブル解決ための公正な基準を提供する役割を持つと解説。 行政規制的な法律のように要件を個別に厳格化する作業にこだわると、 消費者契約法そのものの機能を失ってしまう可能性があると指摘した。 立法担当者にも十分理解されていなかったのではないかと苦言を呈した。

立法論としては「不適切」
つけ込み型取消権受け皿規定必要
 改正法案は、 消費者の知識、 経験、 理解力、 判断力などの不足につけ込む勧誘への包括的な救済を求める 「受け皿規定」 が欠けているという難点があると河上氏。 
 今回追加が予定されている不安をあおる告知、 恋愛感情等の人間関係を濫用した場合の取消権は、 一歩前進とはいえるが、 「社会生活上の経験が乏しいことから」 という新しい要件が加えられ絞り込みが行われている。 このために、 逆に保護の対象が狭まり、 特に高齢者や障害者の被害救済の妨げになる危惧がぬぐえないと問題視した。 
 文理解釈からすれば、 やはりこれは、 若年成人を中心に意識してつくり上げられた規定。 一部で説明されている解釈による拡張は可能かもしれないが、 最初から柔軟な拡張解釈に期待して不必要な要件を加えることは、 「立法論としては不適切」 との見解を示した。 
 消費者の不安な心理・依存心・興奮状態・急迫・無知・無経験など、 いわゆる理性的な判断ができない状況につけ込んで不当な利益を追求する悪質な事業者の行為は、 民法上の 「暴利行為」 と評されてもおかしくない。 個別の立証が容易でないことを考えれば、 「消費者契約法で取消権を付与して、 契約的な拘束から離脱する可能性を認めておくことがぜひとも必要」 と述べた。  ヨーロッパでは、 1980 年代に、 こうした状況の濫用に対する規定は入っている。 日本の消費者保護がここまで遅れてきたのは、 やはりモグラたたきのようなことをして、 なかなか一般的な理念がそこに書き込まれなかったからではないかとの考えを示した。 
 それが難しい、 現時点でどうしても無理だということであったとしても、 せめて、 「社会生活上の経験の乏しさまたは判断力の不足若しくは低下により」 というような言葉を補完することで、 少しでもこぼれていくものを救っておくということが望ましいと話した。

平均的損害の推定規定後退
約款の事前開示へ対応必要
 平均的損害の立証責任への推定規定が、 法案では完全に後退した点も問題だと指摘した。 消費者が 「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」 を立証した場合には、 その額が 「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」 と推定する規定を盛り込むことを答申は求めていたが、 法案には盛り込まれていない。 
 河上氏は、 医療訴訟では、 原告が立証することがほとんど不可能なために、 裁判所でも事実上の立証責任を転換する解釈が行われていることを例に挙げた。 平均的損害に関するデータは全て事業者が持っていることから、 立証責任の所在そのものを考え直すことが必要と話した。 このほか、 約款の事前開示でも問題があると話した。 
 既に成立した改正民法の 「表示型」 約款に関する規定は、 相手方から事前・事後の開示請求がない限り、 約款によると表示さえしておけば、 約款が契約内容とみなされると読めなくもない規定が入った。 
 事業者は合理的な方法で、 消費者が契約締結前に契約条項 (民法定型約款を含む) をあらかじめ認識できるよう努めなければならないという努力義務規定を、 条文として、 遅くとも改正民法施行までに設けておくことを求めた。 
 どんな開示の仕方をしたらいいかわからないなどという事業者もあるが、 「自分が提示しようとしている契約内容を相手に知らせる努力自体を拒絶 するというのは、 私には信じがたい」 と述べた。

社会生活上経験不足の要件「不要」
野々山宏・京都消費者ネット理事長
 京都消費者契約ネットワーク理事長で、 弁護士でもある野々山宏氏は、 「社会生活上の経験が乏しい」 要件は、 消費者委員会の報告書になかったもので 「不要」 と述べ、 削除することを求めた。 元々報告書に盛り込まれていた要件だけでも、 十分に明確でハードルが高く、 これらの要件を満たした事業者は、 「十分に悪質」 との見解を示した。 消費者契約法改正法案には余計なものが1つ (社会生活上の経験不足の要件)、 足りないものが2つあると指摘。 足りないものには、 「平均的損害の推定規定」 と 「高齢者などの判断力の不足につけ込む勧誘方法への取消権」 を挙げた。 超高齢社会では、 判断力不足などにつけ込む状況乱用型の取消権が一番重要と話した。

他の要件ハードル高い
それだけで十分に悪質
 野々山氏は、 法案で新たに追加される2つの取消権の要件をわかりやすく解説した。 
 過大な不安をあおられた場合の契約取消権が適用される要件は、 ①消費者が 「過大な不安」 (一般的な消費者に比べて深刻な不安) を抱いている②勧誘者がそれを知っていて不安をあおる③実績や科学的根拠の裏付けなど根拠のないことを言って、 その願望の実現に必要だと言う―。 これらの要件を満たす必要があり、 それ自体で 「十分に悪質」。 「社会生活上の経験が乏しい」 という要件を追加して、 このような勧誘をする事業者を救済する必要がどこにあるのかと問いかけ、 削除を求めた。 
 恋愛感情など人間関係を乱用した場合の契約取消権が適用される要件は、 ①消費者が勧誘者に恋愛感情などの好意を抱いている②相手も自分と同じように好意を抱いていると誤信する③勧誘者は自分は好きではないが、 相手が好きだと思っていることに乗じて、 契約をしなかったら関係が破綻すると告げる―。 野々山氏は、 こういう商法はそれ自体で 「十分に悪質」 で、 弊害のある社会生活上の経験不足の要件を不意打ち的に追加するのは問題で、 削除すべきとの考えを示した。

判断するのは裁判所
最高裁が異なる判断
 政府が、 解釈で対応すると説明している点についても、 「消費者契約法の最終的な 解釈権者が裁判所であることから、 解釈で対応するのは限界がある」 との考えを示した。 京都消費者契約ネットワークが起こした裁判 (クロレラチラシ配布事件) で、 最高裁は、 消費者庁の解釈の本 「逐条解説」 とは異なる判断をしたことを例に挙げた。

予見可能性の確保は重要
長谷川雅巳・経団連経済基盤本部副本部長
 日本経済団体連合会経済基盤本部副本部長の長谷川雅巳氏は、 規制の範囲が適切に設定され、 内容が明確であることが必要で、 予見可能性が確保されていなければ、 保守的に解釈してしまい経済活動の委縮を招くことが懸念されると述べた。 消費者契約法改正法案は、 内閣府消費者委員会の答申に沿った、 極めて適切な内容との見解を示した。

参考人質疑から
要件削除して委縮する事業あるか
「分からない」長谷川氏
「想像がつかない」河上氏
「考えられない」野々山氏
 立憲民主党の森山浩行氏は、 「社会生活上の経験が乏しい」 要件がなければ委縮する事業があるかと質問。 長谷川氏は 「よくわからないところがある」、 河上氏は 「想像がつかない」、 野々山氏は 「考えられない」 と回答した。 
 国民民主党の柚木道義氏は、 つけ込み型勧誘の検討措置を設けた野党修正案を盛り込んだ形で改正することがこの間の流れに資するのではと、 河上氏の見解を求めた。 これに対し、 河上氏は、 「つけ込み型勧誘の受け皿になる取消権は、 検討せよではなく、 改正を実現してほしいと申し上げている」 と、 改正の実現を強く求めた。 
 自民党の勝俣孝明氏は、 取消権の要件の規定について、 合理性の観点からどう判断して合意したかを質問。 これに対し、 長谷川氏は、 「予見可能性を確保して、 事業活動が委縮しないような形でお願いしてきた。 法律の文言と報告書の文言は必ずしも一致していないが、 こういった文言であれば事案に適切に対応しながら、 かつ、 事業活動の委縮を生じさせないもの評価していた」 と回答。 
 河上氏は 「委員会の中で、 具体的な要件となる立法事実がどこにあるかしきりに問われた。 立法事実に即して規制をすると、 相手も自分が好きだと思うと誤信しというような、 恋愛をしたことがないのかと思われるような、 妙な要件を固めることになる。 相手に恋愛感情をもってしまったら、 相手の言いなりになってしまうわけで、 本来救わなくてはならない人を外してしまう可能性がある」 と、 現状の要件の立て方に課題があるとの見解を示した。

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