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2018/03/16

日本消費経済新聞2223号(2018年2月15日発行)

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消費者契約法改正案骨子
不安あおる取消権の要件
「社会的経験不足」を追加
 今国会に提出される 「消費者契約法改正案」 の骨子が2月2日、 分かった。 消費者委員会専門調査会報告書で新たに追加するとされた①不安があることを知りながらあおる告知をして契約させた場合②恋愛感情などの人間関係につけ込んで契約させた場合の契約取消権に、 「社会生活上の経験不足」 の要件が追加された。 消費者庁は、 年齢で制限しているわけではないと説明するが、 どこまで適用されるか不明確だ。 高齢者をはじめ若年者以外の救済が極めて限定的になることを懸念する意見が出ている。 ①の不安をあおる告知をした場合の契約取消権では、 事業者が知っているべき不安は、 他の人より著しい劣等感を抱いているなど 「過大な不安」 に、 要件がさらに厳格化されている。 ②の恋愛感情などの人間関係を乱用した場合の取消権は、 従来からある人間関係につけ込む場合も対象にしたが、 両思いであると誤信した場合に限定した。 立証が非常に困難との指摘が出ている。 好意を抱き嫌われないために契約してしまった場合は対象から外れる。 適正な事業者のキャンセル料を、 類似する同種の事業者の平均的損害額から推定できる規定が落ちている。 2月末に閣議決定される。(相川優子)

「過大な」不安
事業者知っていた場合が対象
 同日、 非公開で行われた自民党消費者問題調査会 (船田元会長) で、 明らかにされた。 
 契約を取り消しうる不当な勧誘行為に追加する項目として、 「社会生活上の経験不足を不当に利用」 した場合の2つの取消権が提起されている。 
  「不安をあおる告知」 については、 ①社会生活上の経験が乏しく②願望の実現に過大な不安がある消費者に対し、 「過大な不安」 があることを知りながら、 契約が願望の実現に必要であると告げた場合の契約取り消しが可能としている。 
 専門調査会報告書を踏まえた意見募集案は、 「消費者の不安を知りながら、 損害等を回避するために、 必要だと正当な理由なく強調して告げる」 とされていた。 「社会生活上の経験が乏しい」 ことが要件に追加された。 「強調して」 は削除されたが、 「不安」 が 「過大な不安」 に厳格化されている。 
  「社会生活上の重要な事項又は身体の特徴・状況に関する重要な事項に対する」 願望の実現に過大な不安がある場合が対象で、 「重要な事項」 として、 進学や就職、 結婚、 病気で長期に療養した場合などを具体的に条文に書き込む方向で調整が進んでいる。 
 例えば、 就活中の学生に、 過大な不安があることを知りつつ、 「あなたは一生成功しない」 と告げ、 就職セミナーに加入した場合は、 契約を取り消すことができる。 ただし、 「過大な不安」 とは、 人より自分が著しく劣っていると思い込んでいることなどが必要で、 アンケートを受けて事業者から指摘されたなど、 立証が求められる。
  「夫が死んだのはあなたのせい」 「徐霊しなければ、 家族全員ダメになる」 などと不安をあおる霊感商法、 「肌年齢が実年齢より 10 歳上」 などと言われて契約してしまったエステのトラブルなども想定されていたが、 30 代、40 代を含めどこまで適用されるか不明確だ。 
 霊感商法や親切商法などにつけ込まれた高齢者が置き去りにされる解釈になりかねないとして、 「社会生活上の経験が乏しい」 とする要件の削除を求める意見も出ている。

判断力不足につけ込む取消権
消費者委の答申に対応せず
 超高齢社会に突入し、 高齢者の 「金、 健康、 孤独」 の3K と呼ばれる不安をあおり、 判断力不足につけ込んで契約させる悪質商法は後を絶たない。 2014 年8月に首相から諮問された内容は、 「情報通信技術の発展や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点」 からの見直しだったはずだ。 消費者委員会の答申では、 消費者契約法専門調査会の報告書とは別に、 「高齢者や若年成人、 障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し、 過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合の取消権」 導入などを、 特に早急に検討すべき喫緊の課題として付言したが、 骨子には盛り込まれていない。

デート商法の契約取消
「両思い」と誤信した場合対象
  「恋愛感情など、 人間関係を乱用」 した場合の契約取消権は、 ①社会生活上の経験が乏しく②勧誘者に恋愛感情等を抱き 「両思いであると誤信」 した場合に、 事業者がこれを知りながら契約しなければ関係が破綻する旨を告げた場合が対象―と説明されている。 
 意見募集案は、 「勧誘に応じさせる目的で、 密接な関係を新たに築き、 契約しなければ関係が維持できないと告げる」 場合とされていた。 「新たに」 は削除され、 従来からの人間関係につけ込んだ場合も対象だが、 勧誘者が 「同様の感情を抱いていると誤信していた」 という厳しい要件が追加されている。 
 両思いであることは、 直接好きだと言われていなくても、 そのような素振りを見せている場合も対象になると消費者庁は説明しているが、 お互いがやり取りをしたメールなど客観的証拠による立証が求められる。 悪質事業者は証拠を残さないように対応するため、 「立証は非常に困難」 との指摘が出ている。 
  「男性から電話があり、 何度か電話をしているうちに好きになった。 男性に誘われ宝石展示場に行ったところ、 『買ってくれないと関係を続けられない』 といわれ契約した」 場合が、 適用対象事例に挙がっている。 
 30 歳代や 40 歳代でも、 デート商法で投資用マンションを購入させれた場合に、 過去に大きな買い物の経験がない場合などは対象になると考えられるが、 どこまで適用されるのか不明確だ。 
  「恋愛感情その他の好意の感情」 を抱いている場合が対象で、 先輩や後輩、 上司や部下などの人間関係も対象だが、 「通常の友人関係ではなく恋愛感情と同程度の親密な場合が対象」 と消費者庁は説明している。 マルチ商法は若者をはじめ、 地域コミュニティーで中高年にも広がっているが、 通常の友人や知人の場合は、 適用は困難と考えられる。 人間関係の乱用にまで、 社会生活上の経験不足を問う必要があるのかとの意見も出ている。

契約前に、契約内容を実施
「原状回復が著しく困難」
 このほか、 意見募集案に盛り込まれていた契約締結前に、 消費者に心理的な負担を抱かせた場合の取消権2つも導入される。 
 竿だけ売りが、 契約をする前に、 消費者宅の物干し台の寸法に合わせて竿だけを切ってしまった場合などを想定している。 「契約前に契約の義務の全部または一部を履行し、 契約を強引に求める」 としていた意見募集案から、 「契約を強引に求める」 は削除し、 「契約前に契約の義務の全部または一部を履行し、 実施前の原状回復を著しく困難とする」 場合を対象とした。 頼んでもいないのに草刈りをしてしまった場合などは対象だが、 どこまでが原状回復が著しく困難とされるのかが焦点だ。

勧誘の手間や交通費
「損失の補償を請求」
 勧誘にここまで時間や交通費をかけたのに、 なぜ契約しないのかと契約を迫られる場合がある。 意見募集案では、 「契約しないことで損失が生じると強調して告げ、 契約を強引に求めた」 場合の取消権が提起されていたが、 「当該消費者のために特に実施したとして、 損失の補償を請求する旨を告げた」 場合の取消権が規定されている。 
 マンションを勧誘され、 「業者から他都市からあなたのためにここまで来た。 断るなら交通費を払え」 と言われた場合などが、 対象事例として紹介されている。 
 無料だと思って家電の引き取りをお願いしたのに、 有料だったために断ったところ 「わざわざ上の階まで来たのに帰れない」 と言われた場合などが想定されていたが、 「労賃を払え」 などの請求がない場合は、 対象から外れると考えられる。

不利益事実の不告知
重過失の場合も対象
  「日照良好」 と説明しつつ、 隣に別のマンションが建つことを告げすに、 マンションを販売した場合。 これまでは、 利益になる事実を告げ、 なおかつ、 不利益になる事実を故意に告げない場合が取り消しの対象だったが、 重過失の場合も取り消しができるようにする。 
 別のマンションの建設計画の説明会が、 その事業者も参加できる状況で実施されていたなど、 「故意に近い著しい注意欠如がある場合」 を例に挙げている。 「他の事業者にも周知の事実であるような場合が対象」 と、 消費者庁は説明している。 
 このほか、 無効にできる不当な契約条項に、 ①消費者が後見、 補佐、 補助開始の審判を受けたことのみを理由に解除権を付与する条項②事業者が自らの責任を自ら決める条項―が追加される。 意見募集案から変更はない。

平均的損害の推定規定
改正案に盛り込まず
 現行の消費者契約法では、 解約時に事業者の平均的損害を超える請求をされた場合は無効とされているが、 消費者が事業者の平均的な損害を立証することは困難だ。 立証責任の転換が求められたが、 消費者委専門調査会の報告書は、 「事業の内容が類似する同種の事業者の平均的損害を立証した場合は、 その事業者の平均的損害と推定する規定」 を設けることを盛り込んだ。 にもかかわらず、 改正案骨子には、 平均的損害の推定規定は盛り込まれていない。 
 消費者庁は 「すべての消費者契約に適用することができる類似性を判断するための要件を、 法律で規定するのが困難だった」 として、 引き続き検討すると説明している。 
 消費者委員会の付言では、 判断力不足等につけ込んで過大な不利益をもたらす契約の取消権のほか、 事業者が配慮に努める義務に 「年齢等」 を含むことや、 消費者が契約締結前に契約条項 (改正民法の 「定型約款」 含む) をあらかじめ認識できるよう努める規定の導入を早急に検討することも求めていた。 これらにも対応されていない。 
 消費者庁は、 成人年齢引き下げの対応策として、 消費者契約法への契約取消権追加と併せて、 若者の自立を支援する消費者教育の充実などを挙げている。 しかし、 地方に配分される交付金が削減され、 自治体が消費者教育を縮小せざるを得ない状況にあることも大きな問題といえる。 
 今回の改正案は、 超高齢化、 成人年齢引き下げという重大な社会状況の変化に、 十分に対応できる改正とはいい難い。

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