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インタビュー

インタビュー
2016/06/17

中本和洋・日弁連新会長インタビュー

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中本和洋・日弁連新会長に聞く
消費者庁等の徳島移転は全面反対
 4月に就任した中本和洋・日本弁護士連合会会長に、 消費者政策について聞いた。 消費者庁発足後の成果を評価しつつも、 消費者被害を救済し、 被害を未然に防ぐための法律や制度は、 まだまだ不十分だと指摘した。 消費者庁、 消費者委員会、 国民生活センターの徳島移転には、 反対する立場を明確にし、 移転阻止に全力を尽くすと話した。 他省庁が嫌がる法律であっても、 消費者のために必要な法律を作る力をつけることを消費者庁に求め、 消費者の声をより反映させ、 他省庁を説得できる優秀な人材を確保する必要があると力説した。 移転ではなく、 消費者庁の強化を求めた。(聞き手:相川優子)

他省庁が嫌がる法律でも
消費者のために作る力を
——日本弁護士連合会が 1989 年に松江市での人権擁護大会で設置を提唱した消費者庁が発足して6年9カ月になるが、 成果をどう評価しているか
 10 月から、 被害に遭った消費者に代わって消費者団体が損害賠償請求訴訟を提起できる集団的消費者被害回復訴訟制度がスタートする。 私は同制度を検討する日弁連内のワーキンググループで、 検討の当初からかかわってきたが、 まず、 この制度を創設できたのは大きな成果だ。 
 また、 景品表示法改正で4月から、 虚偽誇大な表示で不当な利益を得た企業への課徴金制度が導入された。 2012 年に誕生した消費者教育推進法、 消費者安全法改正による消費者事故調の創設など、 さまざまな立法や法改正を実現した。 
 消費者行政は、 相当程度前進したのではないか。 消費者庁ができなければ、 なかなか実現しなかったのではないか。 

立法する力、まだまだ不十分
他省庁説得できる人材確保を
——不十分な点は
 集合訴訟の実現は、 大きなステップではあるが、 対象が限定されるなど、 まだまだ不十分である。 運用でうまくいくのか心配している。 
 消費者被害を救済し、 消費者被害を阻止するような法律や制度は、 十分とは言えない。 
 消費者被害が十分に救済されない、 あるいは被害を防ぐことができない場合は、 次のステップへ向けて法律を改正し、 より役に立つ仕組みを作らなければならない。 
 そのためには、 消費者の声をもっと反映させる。 各省庁を説得できる優秀な人材の確保が必要だ。 
 立法事実と、 他省庁を説得できる人材の2つがかみ合わなければ、 立法はできない。 
 消費者庁は、 残念ながら、 この力がまだまだ不十分だと思う。 
 各省庁から消費者庁に出向した職員が何年かして、 各省庁に帰っていく。 そういう人たちがどれだけ他省庁に影響力を持てるかという課題もある。 

消費者庁の法律、多くの省庁に影響
中央省庁から離れ、立法は無理
——消費者庁、 消費者委員会、 国民生活センターの徳島移転問題を、 どう考えるか
 とんでもない話で、 移転には反対である。 
 村越進・前会長のときに、 反対の意見書や声明を出しているが、 何らスタンスは変わらない。 
——反対する理由は
 消費者庁が作る法案は、 産業振興を主目的とする他の省庁からすると、 あまり好ましくない、 やってくれたら困る法律が多い。 しかも、 多くの省庁に影響する。 
 他の省庁が、 こんな法律はない方が都合がいいと思うような法律を作るためには、 どれだけ、 説得しなければならないか。 立法事実をきちんと示し、 必要だから法律を作ろうと説得し、 納得してもらわなければならない。 
 集合訴訟1つをとっても、 それは、 大変な、 大変な努力をした。 ある団体から強硬に反対され、 本当に最後まで、 はらはらし通しだった。 
 日弁連も消費者団体とともにずいぶん援護射撃をし、 やっとの思いで法律が成立した。 
 10 月以降に発生した消費者被害にしか対応できないよう、 後退もした。 
 他の中央省庁のそばにいなければ、 立法は、 無理だ。 

テレビ会議では、説得できない
消費者被害の現場は、東京
——なるほど。 他省庁が嫌がる法律を、 消費者庁は、 消費者のために作らなければならない
 ICT (情報通信技術) を活用するということだが、 立法のための国会対応や関係省庁との折衝は、 テレビ会議では無理だ。 
 私は今日も、 この後、 関係省庁に出向くが、 説得には、 直接話をすることが重要。 テレビ会議やメールでは、 できない。 
 関係団体との連携も不可欠だが、 関係団体の本部も、 ほとんど東京にある。 
 消費者被害が多い所が、 現場ということもある。 苦情情報が一番集まってくるのは、 消費者が多い東京だ。 
 企業の不祥事は、 内部通報から出てくることが多い。 企業が多いのも東京だ。 
 重大事故が起きたときには、 監督官庁にすぐに連絡をし、 対策をとる必要がある。 悪質な事業者は処分し、 被害を防ぐ必要がある。 緊急時には、 消費者庁は司令塔として役割を果たさなければならない。 対応の遅れは、 国民生活の安心・安全を脅かす深刻な事態を招く。 
 地方に移転すれば、 消費者庁の重要な役割が果たせず、 消費者行政全体の機能低下につながる。 
 絶対に阻止しなければならない。 

一部移転にも反対
「移転阻止へ全力を尽くす」
——一部施設の移転を容認したとの報道があるが
 一部移転にも反対する。 日弁連のスタンスになんら変更はない。 
 徳島県で開催された民事介入暴力対策大会の記者会見での発言を受けて報道があったようだが、 説明が足りず真意が上手く伝わらなかったようだ。 
 5月 25 日に成立した消費者契約法の参議院地方・消費者問題特別委員会付帯決議に、 全会一致で、 「徳島移転について慎重に検討する」 ことが決議されたことを受け、 会長談話を出した。 今後も、 消費者庁、 消費者委員会、 国民生活センターの徳島移転を阻止するために、 全力を尽くす。 
——徳島移転試行の結果を、 河野消費者相は自ら検証・評価するとしているが
 それはおかしい。 専門的な知見がある第三者が行うべきだ。 
 移転試行の結果を公開していただければ、 日弁連消費者問題対策委員会の専門的な知見のある弁護士から、 意見を述べたい。 

改正消費者契約法、改正特商法
情報化・高齢化対策、不十分
——今国会で、 改正消費者契約法、 改正特定商取引法が成立した日に、 次の改正への検討を求める会長声明を出しているが、 何が足りない
 消費者契約法は、 検討項目は 20 項目もあったが、 今回の改正で実現したのは、 6 項目にすぎない。 
 インターネット取引などうその広告で誤認した場合の規制や、 高齢者の消費者被害への対応は不十分だ。 付帯決議で、 遅くとも3年以内に必要な措置を講じることとされた。 残った問題については、 早急に検討していただかねばならない。 
 特定商取引法は、 訪問販売や電話勧誘販売の事前拒否者の勧誘禁止制度の導入が見送られた。 通信販売の虚偽・誇大広告で誤認した場合の取消権なども導入できなかった。 
——訪問販売や電話勧誘販売を事前に拒否する制度については、 事業者団体の強硬な反対で、 報告書に議論があったことすら盛り込むことができなかったが
 高齢者の詐欺被害が深刻な状態になっている。 高齢者は、 要らないものを断ることも、 難しい。 
 私の母親もそうだが、 いろいろなものを売りつけられている。 説明を受けてもよく分からない。 なかなか帰ってくれない。 お金を払って帰ってくれるなら、 と契約してしまったようだ。 
 日本の高齢者がお金を持っていることも背景にある。 皆、 老後を心配して、 お金を貯める。 その貯めた老後の資金を取られてしまう例が後を絶たない。 
 このような被害を防ぐための施策は、 国の責任ともいえる。 やはり、 国がふさわしい規制をしなければいけない。 
——海外では、 Do not knock (訪問販売事前拒否) 制度や Do not call (電話勧誘事前拒否) 制度を導入している国があるが
 1人で住んでいる高齢者が増えている、 認知症の高齢者が増えていることを考えると、 制度の導入は必要ではないか。 
 勧誘規制は、 適用場面をどうするかを考える必要があるが、 事前拒否制度は、 消費者すべてへの勧誘禁止ではなく、 一部の来てほしくない消費者への勧誘を禁止する制度。 消費者にも、 拒否する権利はある。 

公益通報者保護法改正など
取り組むべき立法課題は多い
——消費者契約法、 特定商取引法以外で、 必要と考える立法課題は
 たくさんある。 
 現在、 見直しが行われている公益通報者保護法は改正する必要がある。 内部から情報が出なければ、 消費者には欠陥かどうか見抜けないものが多くなっている。 
 対象となる通報者や通報事実の範囲を広げ、 保護要件を緩和し、 より通報しやすい制度、 通報者が保護される制度に持っていく必要がある。 
 割賦販売法の改正も必要だ。 臨時国会に提出が見込まれる改正法案では見送られるようだが、 マンスリークリア取引も対象にし、 加盟店契約会社のみでなく、 カード発行会社にも苦情処理義務を課すべきだ。 
 成年年齢の見直しでは、 18 歳に引き下げた場合、 18 歳で未成年取り消しができなくなる。 若年層の消費者被害が救済できなくなるおそれがあり、 慎重に検討しなければならない。 カジノ法案も反対だ。 
 集合訴訟制度については、 十分に消費者被害が救済されない場合は、 対象の拡大や、 1段階目の訴訟で勝訴した消費者団体が、 2段階目の訴訟に消費者の参加を呼びかける仕組み、 公告費用の問題などを見直していかねばならない。 

移転ではなく、強化を
立法できる力つけてほしい
——今後、 消費者庁、 消費者委員会、 国民生活センターは、 何に一層力を入れるべきか
 わが国は、 消費者からの苦情相談件数が年間 100 万件近くあり、 年間の消費者被害額が6兆円を超える。 高齢者の消費者被害が多い。 海外でいろいろ聞いてみるが、 こんな国はない。 
 消費者被害を救済し、 被害を未然に防ぐための法律や制度を完備していかなければならない。 
 他省庁に嫌がられても、 必要な法律や制度を、 消費者のためにどんどん作る。 そういう力をつけてもらいたい。 
 消費者被害を十分に救済し、 悪質事業者にペナルティーを課さなければ、 やり得を許すことになる。 それは、 善良な事業者にとってもよくない。 
 そのためには、 消費者庁を強化する必要がある。 人員を増やし、 予算ももっと取るべきではないか。 人員は、 数だけではなく、 他省庁を説得できる優秀な人材が必要だ。 
 消費者被害の実態、 消費者の声を集め、 立法事実をゆるぎないものにする。 関係団体との連携をより強化することも、 消費者庁を強くする。 
 移転ではなく、 強化が必要だ。 

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